カネのない1on1は「呪い」に変わるかもしれない件【前編】
アジャイル時代のマネジャー育成計画 #3
今回伝えたいこと
計画されないものは実行されない。新年度に向けて真剣にVisionを考え、これに則った人材育成計画を立て、それにかかるカネをきちんと予算に積むべき。
Prologue
世の中「呪術廻戦」のお陰で空前の「呪い」ブームです(ホントか?)。この作品における「呪い」の定義は
『人間から流れ出た負の感情や、それから生み出されるものの総称』
だそうです。なるほど。
私の世代で「呪い」と言ったら、なんといっても「テレビから 貞子が出てきて こんにちは(五七五)」でおなじみ「リング」という作品です。VHSテープを介して「呪い」が伝染るんですけど、いまはVHSデッキないから安心¹ですねー。
1: 映画「貞子3D」ではニコニコ動画で伝染ってましたが
ところで「リング」には「らせん」「ループ」「エス」「タイド」そして外伝の「バースデイ」と全部でシリーズ6作品もあります。
その中でも三作目にあたる「ループ」という作品は、他の作品と違いホラーというよりガチなSF作品と呼べる内容。
23年前にこれを読んだ私は「リング」の核心的な秘密に触れ「まじかーーー!!」と衝撃を受けたものです。
※ 以下、核心には触れませんがネタバレが嫌な方はそっとお戻りください。23年前の作品だけど…
この小説は叙述トリック的な手法が使われているので「こりゃ、映像化難しいな」と思ったものですが、事実「リング」シリーズで唯一この作品だけ映像化されていません。
しかし、現代のテクノロジーがこの小説に追いついている感じがするのと、貞子の呪いとコロナ禍という状況に共通点を感じるこの「ループ」という作品は今こそ映像化すべきな気がしますけどね…だれか作ってくれないかなー。アニメもいいと思う。
タイトルである「ループ」というのはスーパーコンピューターを使って生命の秘密を探るという、世界的な「仮想現実」プロジェクトのコードネームです。
終盤、この「ループ」プロジェクトの責任者エリオット博士と主人公・馨(カオル/男)がこんな会話をします。
そこまで一気にしゃべると、エリオットはひょいと首をすくめ、口を前に突き出してきた。
「ところで、世界が何で動いているか、君は知っているかね」
「現実の世界ですか、それともループ」
ループが何で動いているのか、常識的にみれば明らかだった。ループ界を支えるのはエネルギー、要するに電力である。だが、現実の世界となると……。
エリオットはさもおかしそうに笑った。
「現実も、ループも、その点はうまく重なっている。両方とも同じ原理で動く。いいかね、世界を動かすものは予算だ」
へ?予算?
当時まだ若かった私は、そう思ったものです。でも、なんだか凄く印象に残りました(今でも覚えているぐらいなので)。
そして見透かしたかのようなセリフが続きます。
エリオットは予算の意味が馨の頭に浸透するのを待って、続けた「ループという巨大プロジェクトに予算がつかなかったら、あの世界は存在しなかったんだ。だから、現実もループも、予算がなければ動かない」
そうか、世界は予算で動いているんだ……。この「ループ」を読んでたころは「ふーん」って感じでした。
23年の月日が立ち、いま私は部門予算²を策定する立場になっています。今だからこそ分かります。本当に、世界を動かすものは予算でした。
2: 私が所属する組織はプロダクト開発をする組織ですのでここで云う「予算」はVisionとアウトカムを達成するために「使うカネ=予算」を指します。売上を立てる方の予算ではありません。
開発組織における予算とは何か
毎年、期末になると来年度に向けた予算を作るわけですが、戦略立案や各所との調整など予算策定の時期はけっこう大変です。予算は、企業活動において重要な計画の一部であり、部門レベルのVisionを達成するために重要な要素です。
もう少し具体的に説明しましょう。
部門レベルのVisionは「その組織は何を目指していて、どんな姿になりたいか?」を指しています。そのVisionと現状を比べることでギャップが発見されるのですが、このギャップを解消する方法として「戦略・戦術」が立案されます。
この「戦略・戦術」の行使にこそカネがかかるのです。
ですが、予算策定の段階で「開発の道具」の予算しか積まないテック系マネジャーが少なからずいます。「開発の道具」とはサーバーとかPC、ツールのライセンス費、いま使ってる外注さんの継続費用などのことです。
しかしVisionを達成するためには「開発の道具」だけでは足りません。
たとえば、チーム力を高めるためにリーダーたちにコーチングを学んでもらう必要があるかもしれません。
今回開発するプロダクトは流行りのテクノロジーを利用しており、その研修をメンバー全員に受講させたいかもしれません。
開発スピードを上げたいので外部のアジャイルコーチを雇いたくなるかもしれません。
プレゼンスを上げたいのでメンバーを学会に参加させてみたり、技術コミュニティに積極的に参加させたいかもしれません……が、Visionに鈍感なマネジャーほど、こういった予算を積み忘れます。
予算の難しいところは、七夕のように基本的には年に1回しか計画のチャンスがないことです。
もちろん、期の途中で予算(計画)が修正されることはありますが、それは業績がめっちゃ上振れするか、反対に下振れしたときか、なんかチャンスを逃したくないのでギャンブルするときです。(投資家が居ればね)
計画にない予算は「予算外」扱いとなり、担当の役員や経営会議の承認が必要で、大抵の組織ではその行使が圧倒的に困難・超めんどくさいことになります。だから、予算計画は大事なのです。
予算は1on1にも影響する
日本でキャズムを超えた感ある「1on1」ミーティング³。しかし、上手く行われていない1on1についてもチラホラ聞くことがあります。
- 進捗報告 or 雑談 or 説教ばかりでおわる
- 一ヶ月に1回しかやらない
- そもそも1on1が実施されてない
イケてない1on1の噂をきくたびに、 1on1をなぜやるか?ということについて当事者(組織、マネジャー、メンバー)同士でコンセンサスが取れてないんだろなあと思っています。
私が考える1on1をする理由。それは
メンバーのVisionを達成する
これに尽きます。簡単に言えば人材育成です。部下のスキルを伸ばすのはマネジャー(上司)の役目です……って、そう会社から言われていません?
ところが、上司と部下の会話でこんな感じのやり取りはないでしょうか?
メンバー:「部長。来月開催されるhogehoge Tech Japan っていうイベントに参加してみたいんですけど。今のプロジェクトに役立つと思うんです!参加費4万円かかるんですが…」
上司:「えー、うちそんな予算ないから無理」
この部長の「詰んでる」ところは
- 上司の育成予算を計画してない
- 会社のお金の使い方がわからない
の二箇所です。普段マネジャーが見ているVisionはそのまま予算へと反映されます。マネジャーの見識が狭く、育成にもカネが必要だと気付けないと予算が無いまま何もできない新年度が始まります。
めっちゃ主観ですが、普段から「アウトカム」にコミットしているマネジャーは、ビジネスと開発、両方見えているのでうまい予算を立てると思います。
もしアナタが上記会話のメンバーと同じ境遇でしたら、きっと上司を呪うことでしょう。さっさと転職したほうがいいかもしれません。
また、アナタがゼネコン体質(下請け、孫請け)組織のマネジャーであれば気をつけてください。SES契約とか言われる「予算が固定」されるだけの世界で長く生きてしまうと、予算まわりの知識がぼんやりとしたまま歳をとってしまいます。
いつの間にかはげちゃびんになって会社を呪うぐらいなら、やっぱり転職したほうがいいかもしれません。⁴
3: 「1on1ミーティング」はYahooさんが商標登録してたりするんだぜ
4: 漫画「呪術廻戦」12話で、ファミレスのバイト君があるものを見て高速でバックレるという有名なシーンがあります。まさしくアレです。
祓う:計画されないものは実行されない
ここまでは、なぜマネジャーは予算が計画できないのか?について考察してきましたが、では反対にどうすれば予算が立てられるのか考察してみましょう。
プロダクト開発も、予算も、計画されないものは実行はされません。
たとえばスクラムチームの場合、バックログにアイテムが積まれてこそスプリント計画の俎上に乗るわけで、積まれていないアイテムはだれも作業してくれるわけありません。予算もバックログに積まれないと、実行されません。
マネジャーはVisionを達成させるためにマネジメントをしています。そこで次のような要素を順に実行する必要があります。
(1) 会社のVisionに則って、部門のVisionをまとめる(2) 部門のVisionに則って、グループのVisionもまとめる(3) グループのVisionに則って、メンバーに個人のVisionを考えてもらう(4) 1〜3それぞれの、現状とVisionとのギャップを認識し「ギャップを解消する方法」を考える(5) 「ギャップを解消する方法」にカネがかかる場合それを予算化する(6) メンバーに「ギャップを解消する方法」のタスクをアサインする(7) MBO(OKR)を利用して、メンバーに合わせ伴走する。
予算はステップ5あたりで見えてきます。これら、ひとつひとつ詳細に説明したいとおもいますが、今日はちょっと疲れました。次回にしましょう。
あ、近いうちにMeet Up します。良かったら見に来てください。今日のお話しにも触れるかもしれません。
後編に続く!またね!